SINA SUIEN 2017 S/S collection
「F/S needle/string/cloth」at Saimyo-ji, a Zen temple in Niigata
photo/Yohei Kichiraku
SINA SUIEN 2017 S/S collection
「F/S needle/string/cloth」
新潟にある西明寺というお寺には、水の流れ(音楽、弁舌、芸能、流通、運気等)を司る、弁財天様が奉られています。
上野不忍池の御分霊として来られた弁財天様は、毎年夏の祭礼に芸術を奉納されてきました。
この芸術奉納を、知り合いを介して知ったわたしは深く縁を感じました。奉納の様子を映像で観た時、次回のコレクションはここでやることになると直感したのでした。
そして、去る2015年8月初旬、宿坊でもある西明寺に一週間ほど坐禅滞在させていただきました。滞在中には、ショーのイメージを考えたり、ご住職に坐禅、お袈裟について教えていただきました。
坐禅とは本来の自己に還るということ、身体の外内を問わず、偏らない自分自身を見つめること。衣食住を調え、「今、ここ、わたし」に気付くことが大事だと知りました。
お袈裟については、お釈迦様が修行僧の規律のために最初に考案された時からずっと伝えられてきたもので、今も正しく継承されていること、形や縫い方、素材や色に至るまで意味があり事細かに規定があること等知りました。元来僧侶は世間で不要となった布を自らの手で縫い合わせ、信仰の旗印に昇華させて来ました。欲望から離れた布で作り上げた服を身に纏うことで、執着や良くないこだわりから解放される。服を作ること、着ることも修行の一環、遥か昔から今に至るまで変わらずに受け継がれてきた尊い姿であると思いました。知れば知る程なるほど、と思うことがあり、興味は深まるばかりでした。
そこで、次のファッションショーのお洋服の形のテーマはお袈裟や、お坊さん、着物、インドのサリーやインドの雰囲気を組み合わせて考えることにしようと思いました。
今回のファッションショーの演出家は、音楽にまつわる作品を数多く発表されている芸術家の藤本由紀夫さんです。
わたしは以前から藤本さんの作品のことが大好きで、幾度となく作品を拝見してきました。藤本さんは、対象となる物とじっくり対話し、対象物の新たな側面を引き出し、それを作品にされている方であると感じています。
藤本さんにより新たな表情を引き出された作品や、空間、言葉や佇まいには印象的な余白と絶妙な余韻が纏われています。
私は約一年に渡り、演出として藤本さんとショーをどのようにするかを話してきました。
そして、藤本さんのアトリエで私の刺繍するという行いと対話をしてもらい、私の刺繍するときの音を用いて作曲をしてもらいました。
ショーでは、その刺繍の音楽を西明寺の坐禅堂にしきつめて(布/cloth)
その中をSINA SUIENの服と、音のカケラを身に纏ったモデルさん(縫い針/needle)に歩き回って(糸、線/string)もらいます。
ファッションショー全体で立体的な刺繍の作品、つまり刺繍のオーケストラを作り上げます。
百聞は一見に如かず。これから始まる渾身の作品を是非楽しんで体験いただけましたら幸いです。
藤本さんに、私の“刺繍する”という行為を録音してもらい、その音を極限まで引き延ばしたり、色々な形に加工して作曲された音楽を聴いた時、私の刺繍に対する想いも更新されました。
針を突き刺す瞬間の張りつめた音、衝突のパワー。
糸を引くしなやかな持続。その繰り返しをつなげて一つの面ができあがる。
刺繍という柔らかいイメージの行為とはかけ離れた、厳かでおどろおどろしくもあり、神聖な音楽。
自分を保つために、現実と向き合いたくなくて、夢中になりたくて、ただひたすらやっていた刺繍という行いの一つ一つは、とてもドラマチックで二度として同じではなかったのです。
今回、西明寺で弁財天奉納という形で、神様に向けてショーをすることにより、私自身がまず、洋服を作ることで今生活が成り立っている現状に感謝するとともに
今後も活動を胸を張ってがんばれるように、今一度制作態度、考え方、生き方を調えるような機会にしたいと思います。
無茶なお願いに快くご対応下さった西明寺ご住職、ご家族の皆様、そして、演出家の藤本由紀夫さまはじめ、いつもお世話になっているスタッフの皆様、モデルさん
この度はわたしの夢を叶えるために奔走くださり本当にありがとうございます。
あわせまして、今、ファッションショーを体験いただいている皆様、全員のご協力で西明寺の奉納ファッションショー「F/S needle/string/cloth」を実現出来たことを深く感謝いたします。
本当にありがとうございます。
2016.8.28 SINA SUIEN 有本 ゆみこ